フリーライター やつづか えりさん
佐久穂で見つけた新しい働き方
東京で暮らしていた時は、フリーランスのライターとして企業への取材活動を行っていました。佐久穂町への移住後も、同じ仕事をオンラインに切り替えて続けていて、少しずつ長野県内での取材も増えています。
そんな中で、佐久穂町のブランディングやPR活動をされている、「アンテナさくほ」の方々と繋がりができ、同法人が町から請け負う『さくほ通信』の発行をお手伝いするために、2年前から「さくほ通信club」というサークル活動のようなものを始めました。
そこから、町が移住支援のために情報発信するウェブサイト『さくほde暮らす』や広報誌の中で、インタビュー記事を書かせていただいたり、地方創生戦略の一環として町の未来を検討する委員会に参加させていただいたりと、地域と関わる仕事が増えているのが嬉しいです。
ご縁から見つけた答え
東京で子育てをしていると、小学校3~4年とか、お家によっては保育園の頃から「お受験」を意識した動きが見えてくるんですよね。もちろん、いい学校があってそこに行けるなら悪いことではないと思うんですけど、受験のために子どもの時間の大半を割くのは、ちょっともったいないな、という思いがあって。
とはいえ、じゃあ具体的にどうする、という案はないまま、子どもが保育園に通っていた頃、たまたまライターの仕事で、当時大日向小学校の設立準備をされていた長尾彰さん(現学校法人茂来学園理事)にお会いする機会があって、その取材の中で、学校のお話を聞くうちに興味が湧いてきて、体験教室に来てみたんです。
その時に、ここならいろいろな経験ができそうだな、という印象を受けたのと、『誰もが、豊かに、そして幸せに生きることのできる世界をつくる』という建学の精神に惹かれました。
受験の話との対比になりますが、自分だけが競争に勝ち抜く力を身に着けるのではなくて、「周りのみんなも一緒に幸せになる為に出来ることを追求していく」、そんなことを考えられる人になって欲しいので、そういう意味でもすごくいいなって思ったんですね。
他にも選択肢はあったんでしょうけど、やはりお受験自体に前向きではなかったので、大日向の子どもの能力を測るのではない選考のシステムと、そのために特別な準備が必要ないという点も、わが家には合っていたんでしょうね。
あとは「ご縁」ですかね。先ほどの、長尾さんとの出会いで知った、ということもありますし、体験に来た時に、町の職員の方々のウエルカムな印象がとても良かったので、特に他と比べることもなく、ここに来たいな、と感じました。
移住するにあたって苦労したこと
もともとインターネットが大好きで、何でも検索して情報を得ようとするタイプなんですが、最初は佐久穂町も大日向小学校も情報が少ないな、と感じましたね。当時は、役場ってもっと遠い存在だと思ってたので、すべて自分で検索したり探したりしてたんですが、今思えばもっと頼ってもよかったのかな。もちろん、出来ることと出来ないことがあるでしょうけど、それも聞けば教えてもらえたんでしょうね。
あとは、地域おこし協力隊の方が移住の支援をされていたので、SNSで繋がって、ちょっとしたことはそちらにお聞きしたり。大日向小学校に入学できるかどうか分かるのが、11月の終わりということで、決まってからだと4か月ほどしかないので、できるという前提で少しずつ準備していましたね。
大変だった家探し
この家も、「決まったら契約します!」という感じで交渉していました。
家探しはちょっと大変でしたね。物件も少ないし、それまでは、不動産の内見って綺麗にクリーニングされた部屋を見るのが当たり前と思っていたので、残置物がいっぱいの空き家を初めて見た時は、「この荷物はいったいどうなるの!?」って、その点は不安でしたね。
佐久穂にはアパートが少ないので、賃貸も含めて一軒家をいくつも見る中で、いろいろなご縁があってここを購入しました。賃貸でいい物件があれば、その方がよかったんですけど、優先順位として、やっぱり学校のある佐久穂町で、学校にも地域にも関わりたいと思っていたので、まずはその条件で探してみて、どうしてもダメなら地域を広げてみようと考えていました。
何軒か見るうちにこの家に出会って検討した時、体験教室に県外からもたくさんの方が来ていたことを考えると、もしも私達が去ることになっても、ここに住みたい人がいるに違いないと思ったことと、価格的にも都会で買うのとは違うということで、思い切って購入しました。
大日向は今後高校も出来る予定が発表されたんですが、高校以降は子どもがやりたいことを見つけて、自分で行きたいところを選んでくれたらいいな、と思っています。それで、もしこの地を離れるとなっても、せっかくいいご縁もできたし、私自身はこのままここに住み続けたいな、と今は思っていますね。
佐久穂町の環境について
町の方も、役場の方も、不動産屋さんも、みなさん口を揃えて「こっちは寒いよ!」と仰るので、そこは覚悟して来ましたね。
事前に、佐久穂町と小海町が共同で企画した移住体験ツアーに参加したんですけど、それがちょうど2月で、雪が降ってたんですよ。そんな中、早朝から松原湖でワカサギ釣りをしたり、スケートに連れて行ってもらったりしたので、この寒さに耐えられれば大丈夫かな、という心の準備ができたのはよかったですね。
3月末に引っ越して来た時は、「春なのにまだ寒い!」と驚きましたけど、東京とこちらと、桜を2度楽しめたのは嬉しかったです。
どちらかというと都会育ちだったので、こんなに自然豊かなところで暮らすということが、あまりイメージ出来ていませんでした。周りで地方出身の方が「こんな都会だと疲れるから、いつかは田舎に帰りたい」とか、「子どもはもっと自然豊かなところで育てたい」とか言うのを聞いても、リアリティを感じていなかったんです。
東京にも公園はいっぱいあるし、川もあるし・・・と思ってたんですけど、実際に住んでみたら全く違って。ここだと特に、どっちを向いても山があって、季節の移り変わりを山で感じますよね。あぁ、雪がかぶってきたなとか、溶けてきたなとか、寒さを感じた後に、徐々に花が咲いて色が増えてくる、その景色がすごく素敵で・・・それはすごく豊かなことなんだって、初めて実感したし、そんな環境で子どもを育てられるって、やっぱり幸せなことなんだなって分かったのは大きいですね。
子どもに感じる変化
実を言うと、当初子どもは保育園のお友達と離れるのが嫌で、佐久穂に来たがっていなかったんですよ。なので、「あなたにとっていい学校だと思うから、とりあえず行ってみて。中学校まであるけど、途中でやっぱり戻りたいと思ったら戻っていいよ」と、条件付きで来たんです。でも、実際に来てみたら本当に毎日楽しそうで、学校にも休まずに通っているし、好きなことに一生懸命になれる環境がいいな、と思っています。
うちの子は音楽が好きで、今はギターやウクレレをやっているんですけど、それも1年生の時のグループリーダー(担任の先生)がギターを弾く方で、朝のサークルっていうみんなで話す時間も、ギターを弾いて始めたりっていう環境の中で、自然とやってみたいという気持ちが生まれて。お友達からコードを教わったり、子ども同士で教え合ってぐんぐん上達するんです。
そうやって興味のあることにどんどん挑戦して、生き生きと楽しんでいる姿を見るたびに、佐久穂に来てよかったな、と実感しています。
先ほどもお話しましたが、『誰もが、豊かに、幸せに~』という建学の精神から、対話というものをすごく大切にしていて、お友達と遊ぶところを見ていても、ちゃんと話し合いができているんですよね。
それぞれにやりたい事が違っても、そこで喧嘩するんじゃなくて、時間をかけてどうするかを話し合っているのを見て、いい学びをしているなと感じます。もちろん私からも、「話し合うって大切だよ」ということを伝えてはいますが、先生方を含め、周りのみんなでそういうことを伝えられるのは、すごくいいことだなと思うんですよね。
もともと、近所の公立学校に行ったとしても、学校のルールや先生の言うことは絶対じゃないよ、ということを伝えようとは思っていたんです。「多様な考え方があること」や、「意味のない決まりごとが世の中にはあること」を言わなきゃいけないな、と考えていたんですけど、先生の言うことと、親の言うことが違うことで、子どもなりにストレスもあるだろうな、とも思っていて。そういう意味で、学校と親との間に考え方のギャップが少ないというのは、ありがたいですね。
これからの佐久穂暮らし
大日向小学校にはPTAというものがないんですが、保護者が関わりたいと思えば、いくらでも関わることができるので、今はその部分が大きくなっていて、仕事の時間との兼ね合いに悩みつつも、うまくバランスを取りながらやっていけたらいいなと思っています。
地元の企業さんと連携して学校でのイベントや勉強会などを企画したりもしていますが、今後もいろんな人を巻き込んでいきたいですね。もちろん、自分がフリーランスであることで時間を調整しやすいという点は大きくて、みんながそうではない、会社のように指揮命令系統があるわけでもない中でやっていくことには難しさを感じますが、どうしたらお互いに気持ちよく関わり合っていけるか、ということを大切に考えています。そもそも「わざわざ移住してでも大日向小学校に来たい!」と思った方々なので、「協力したい!」という想いがある方がほとんどなんですよね。なので、難しさはありつつも、すごく楽しくやれています。
学校も含めて、誰もがここに来てうまくいく、ということではないと思いますが、何か問題が起きた時や悩みを抱えた時に、きちんと声が届けられる距離感と、対応していただける体制があるというところは魅力ですし、移住先として佐久穂をおすすめできる点ですね。
DATA
フリーライター
やつづか えりさん
都会の「お受験文化」に戸惑いを感じていた時、ご縁に導かれて訪れた佐久穂町。
移住には大変なことも多かったけれど、それもいい思い出、と笑顔で語るやつづかさん。
ご自身のスキルを活かしながら、地域と関わる暮らし方の秘訣をお聞きしました。