佐久市で解体した建材を佐久穂町の移築予定地(布流久佐所在地)に運び入れ、地域の大工の力を借りながら、建て方*を行っていきます。
※建て方:予め刻んだ土台、柱、梁などを現場で組み立てること。
1959年、江戸時代より使われていた尺貫法*は廃止され、グローバルスタンダードとなっていたメートル法により一尺を910mmとする尺モジュール*が登場します。移築の一番の懸念点は尺貫法が適応されていた頃の古材に新材を組ませることでした。現代は尺モジュールが主流となり910mmの製材が流通していますが、当時は一尺が303mmだったため関東間*で計算をすると909mmの製材が用いられていることになり、1mmの差が生じるはずです。しかし、不思議なことに解体した古材は910mmと現代の製材と同じ寸法だったのです。無事、通常の加工で施工できたものの、未だこのことは布流久佐の謎として残っています。
※尺貫法:尺・寸・間などの建築分野における軽量単位システム。一尺=303mm
※関東間:関東地方や北陸以北で使われた基準尺。一間=6尺
土蔵の移築を終え、今度は先人大工に倣い、必要な新材を手刻み*をし、古材に組み合わせていきます。伝統構法の魅力は今回の移築プロジェクトのように歴史ある建物の修理・復元ができる点です。現代、少子高齢化やプレカット材 *の普及に伴い伝統構法の継承者が不足しています。日本の多様な風土や生活のなかで培われた建築文化。それを保護する担い手が足りないというのは深刻な問題です。3年に渡る移築プロジェクトはある意味で時代の分岐点にいる私たちが地域に根ざした工務店としてできることを体現しているように思います。
※手刻み:大工が全ての工程を行い、建て上げる構法
※プレカット材:あらかじめ工場で加工した構造材